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組織の「自分ごと」化を目指したワンダーフォーゲル部の意識改革|上智大学ワンダーフォーゲル部

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2019年11月07日

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はじめに

この記事を通じて、組織の成員が主体的に活動するようになるために、どのようなことが必要か、上智大学体育会ワンダーフォーゲル部の例が参考になれば幸いです。

 

ワンダーフォーゲル部に入部した私は、二つの新しいことに遭遇しました。

一つは登山というスポーツ、そしてもう一つは「部活っぽくない部活」です。


他人が見れば、「体育会からかけ離れたサークルのような部活」

それが上智大学体育会ワンダーフォーゲル部にまとわりつく評判でした。


今でもそうかもしれません。


「体育会からかけ離れたサークルのような部活」

これは、ワンゲルの強みでもあり、弱みでもあります。


私は大学2年次の秋、そんな部活の主将に就任しました。

私は主将として、これらの弱みを改善して強みとすべく、活動しました。

ワンダーフォーゲル部の特有な事情

ワンダーフォーゲル部は、主に登山を行なう体育会の部活動です。

部員の多くは大学から本格的に登山を始め、3年秋の代交代までには日本アルプスを中心に登れるようになります。


活動は月に1~2回程度の登山(登山企画を山行という)、それ以外は週一回の部会とトレーニング、その他定期的に講習会を机上や実地で行なっています。

こんな当部には、他の体育会部活動とは異なる特有な事情があります。

 

  • 登山というスポーツでは、「全員がスタメンで試合(=山行)に出ることができる」、悪く言えば「普段の活動(トレーニングなど)を頑張っている人もそうでない人も関係なく試合に出ることができる」
  • 登山には色々な楽しみ方があるため(縦走登山・雪山・沢登りなどの形態、食事・カメラ・植物などの要素)、良くも悪くも「部としての目標」が曖昧

全員スタメン、部としての目標が曖昧

他の体育会ではありえない2拍子が揃っているのが、ワンゲルでした。

 

そしてこのような事情も原因の一つとなって発生していたのが、「事故になりかねない事象」です。


山行中での道迷い、体力不足によるケガや過呼吸、一歩間違えれば大きな事故になりかねない事象が頻発していました。

このことからわかるように、ワンゲル主将が必ず直面する最重要タスク、それは「安全第一」な登山の確立で、私にとってももちろんそれは最優先事項でした。

注目した部員の「主体性」

私は、登山における「安全第一」を確立するうえで最も大切なことは何か、ということを真っ先に考えました。


そして導き出した答えが、「自分の身は自分で守る」ということでした。


登山は一人でも複数人でも行なえますが、自分の食料や防寒着、その他必要なものは、基本的に自分で持ちます。

また、山行当日に向けた体調管理や、より高度な山行に行くための技術・知識・体力の蓄積など、自ら考えて行動する必要があります。


例え複数人で登っていたとしても、最終的に自分の命を守るのは自分です。

登山は誰でも気軽に始められますが、それだけシビアな一面もあるのです。


しかしワンゲルでは、その意識が欠如していました。

特に、「技術・知識・体力」に関して、先輩やできる人に任せる、自分はなくてもいい、そのような感覚を口に出さずとも多くの部員が持っていたことだと思います。

この意識の低さが結果として「事故になりかねない事象」に直結していました。


つまり、

「登山における安全第一の実現」→「技術・知識・体力」の増強に努める

ではなく、

「登山における安全第一の実現」→「自分の身は自分で守る」ことを各々が理解する

→それらを踏まえて「技術・知識・体力」の増強の必要性を認識し、それに努めることが最も大切なことであると考えました。


他人任せでは自分の身は守れません。


言われるがままに「技術・知識・体力」の増強をしても、その必要性をしっかり認識していなければ、結局は意識の低さは変わりません。

各々が理解するということは、一人ひとりが「主体的に行動する」、もっと言えば、ワンゲルの活動を一人ひとりが「自分ごと化」することです。

それがワンゲルの安全性向上に最も必要なことだと考えました。

「自分ごと化」への道筋

「弱み」に向き合う

とはいえ、これは非常に難しいことでした。


言って意識付けするだけ、それでうまくいくのであればもうとっくに解決しているはずです。


道筋の一つとなったのは、「全員スタメン、部としての目標が曖昧」の2拍子でした。

これらは、安全性が脅かされている以上、それは「弱み」になっていると私は感じていました。

そしてワンゲルの活動を「自分ごと化」には、これらを強みとすることが必要だと考えました。

取り組み1:「目標設定シート」と「振り返りシート」

最初の取り組みとして「目標設定シート」と「振り返りシート」というものを作成しました。


「部としての目標が曖昧」という点に着目して、あえて個別に「目標設定シート」という紙を配布し、一人ひとりに記入してもらいました。


「自分はワンゲル部員としてどのようなことを成し遂げたくて、そのために何をしなくてはいけないのか」ということを考えるだけでなく紙に書き落とすことで、少しでも部員が「なんとなく」ではなくしっかりと目的意識を持って活動できるようになってくれるのではないか、と思い取り組みました。


そして大事だったのは、「振り返りシート」です。

目標設定は、一定期間経ってからそれを振り返り、達成できたかどうか、なぜそうなったかを考えることで、次につなげることができます。


部としての目標は曖昧でも、各々の目標はしっかり固定する、これは「自分ごと化」において最も重要な取り組みでした。

取り組み2:「ノルマ制度の実施」

これまでも「春学期で1/2の山行に参加」などといったノルマはありましたが、それは形骸化していました。

部員の部活への参加動機に直結するノルマの考え方を見直すことで、「自分ごと化」に活かすことができるのではないかと考えました。


ノルマ制度を考え直すうえで大切にしたことは、「全員スタメン」の打倒です。

登山は、定期的に実施することで体力も自ずと増強されます。反対に、他のスポーツと同様に登山をしない期間が開くほど、体はなまっていきます。


そのため、シーズンの集大成となる夏に向けて体力をつけるために、定期的な山行・ステップアップできる山行を月毎にノルマとして設定しました。そして、各月のノルマ達成が次の山行参加への条件としました。さらに、各山行の「目的」を明確に定めることで、ノルマの意味が分かりやすくなるようにしました。


こうすることで、

「自分が仲間と楽しく登るために頑張らなくてはいけない」

「これだけのことをやないと仲間に迷惑をかけてしまう」

ということを部員に認識してもらうことができました。

図1)ノルマ制度の仕組み

4月から夏休み(最終目標は大縦走)にかけてステップアップできるように、月毎にノルマを設定しました。

またその際に、月毎のノルマの目的も明確にしました。


取り組み3:「少数精鋭のチームビルディング」

これは特に、技術や知識を増強する講習で実施しました。

これまでは、「一斉教授型」の講習を行っていました。これは非常に楽ですが、聞き手が受け身になってしまい、学びになりにくいというデメリットがあります。


そこで、一斉教授型の講習を止め、「少数精鋭型」で行うようにしました。


例えば地図読みの実地講習では、部員を10チーム程に分け、読図をしながら山中を歩かせたのですが、このチーム分けがポイントでした。

各チームのリーダーには、幹部などを務めていない、普段は教わる側にいた上級生を抜擢しました。


そうすることで、当人達は必至になって予習をしますし、だからこそチームで協力して学ぼうとします。

このような「少数精鋭のチームビルディング」で、一人ひとりが以前より前向きに行動するようになりました。

「自分ごと化」のリーダーとして最も重要だった意識

部員の「自分ごと化」を目指していく中で、私が“主将として”意識したことは次の3つになります。

リーダー自身が「自分ごと化」する

リーダーが言い出しっぺで終わっていては意味がありません。言い出したからには、まずリーダー自身がそれを体現する必要があります。

意識を言葉と姿勢で伝える

言葉で伝えることは非常に簡単ですが、説得力を増すためには、リーダーの背中を見せることが非常に大切です。

「失敗は成功の基」の精神

変化を起こす時、人は失敗することがあります。失敗はネガティブなことかもしれませんが、失敗することで学ぶことや気づくことがあります。失敗した人に対して、怒るだけでなく、失敗した次にどのように行動するかを見守ることも大切です。

 

その一方で、大変だったなと思うこともいくつかありました。

取り組みが非効率的だった

「自分ごと化」するには、部員一人ひとりと向き合うことが大切でした。しかし、目標設定シートを見ながら、ノルマの状況を見ながら、その部員はどのようなことを考えて活動しているのかということを考えることは非常に時間のかかることで、とても非効率的だなと思うことが多かったです。

「自分ばっかりやっている」と思ってしまい、ネガティブ思考になる

非効率的であるが故に、辛いと思うこともたくさんありました。結果が出ない時、「自分はこれだけやっているのに何でうまくいかないのだろう」とネガティブになることが多かったです。

 

十人十色である「人」に対してアプローチすることは、時間がかかります。

そして、なかなか思い通りにはいきません。しかし、意識という根底の部分にアプローチするからこそ価値があると考え、活動していました。

取り組みの成果は非常に定性的だが…

これらの取り組みによってどのような成果が得られたか、それを図る尺度がないため、非常に定性的な評価しかできません。

しかし、多くの部員が、ワンゲルの中での自分の役割について考えるようになったことは確かです。


そして、それを達成するために何をする必要があるのか、ただ単に与えられたことだけをそのままやるのではなく、それをやることにどのような意味があるのか、一つ一つの行動に目的を見出すようになった気がします。


例えば、ある部員は、体力不足を解消するために部活のトレーニング以外でも走り込みなどを行なうようになり、他の部員と遜色なく活動できるまでに成長しました。

そして、体力がついたことで、これまでよりも意欲的かつ積極的に登山活動に参加できるようになりました。


また、ある部員は、自らの「知識の無さ・意識の低さ」を痛感し、それらの向上に努める中で、「ワンゲルでの自分の存在価値をもっと高めたい」と考えるようになりました。

そこで彼は、趣味であったカメラを用いて部員の笑顔や自然の素晴らしさを写真に収めることに尽力しました。それらの写真は、ワンゲルのFacebookや代交代時に先輩に贈るビデオで用いられ、彼は自らのワンゲルでの存在価値を感じることができたようです。


このような部員の変化には、少なからずワンゲルを「自分ごと」として捉えるようになったことが表れているように感じました。

 

「体育会からかけ離れたサークルのような部活」

サークルのような制限の緩い組織だからこそ、「自分ごと化」は非常に難しいです。


しかし、そのような環境だからこそ、「自分ごと化」ができた暁に得るものは非常に大きいものだと思います。

ワンゲルは現在でもまだまだ発展途上です。

一人ひとりが自立して行動できるようになるために、日々成長あるのみです。

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